ノーマライゼーションについて

ノーマライゼーションについて

ノーマライゼーション

ノーマライゼーションという言葉は、福祉の世界や教育現場等において当たり前のように飛び交っている言葉です。しかしながら、まだまだ国内での認知度は低いように感じます。ここでは初めてノーマライゼーションという言葉を聞く方を対象に、その意味などについて考えてみたいと思います。

 

 

 

◆ノーマライゼーションの発祥

 

ノーマライゼーションは、デンマークのニルス・エルク・バンクミケルセンによって「障害のある人たちに、障害のない人々と同じ生活条件を作り出すこと」とされ、知的障害者へのあり方について初めて提唱された考え方です。その後、スウェーデンのベングト・ニリエによって、ノーマライゼーションの概念が体系化され、世界中に広められることとなりました。

 

現在では「障害をもつ人も、もたない人も、地域の中で生きる社会こそ当たり前の社会である」と定義づけられています。これにより誰もが障害者(児)に対して「差別」や「偏見」をもつことなどないように、「人権」の問題として捉えられるようになりました。以後、広く教育や企業活動等に取り入れられています。

 

 

※ノーマライゼーション(normalization)のノーマル(normal)とは、日本語で「普通」と訳されます。

 

 

 

◆ノーマライゼーションが提唱された歴史的背景

 

かつては社会的・身体的に援助が必要な障害者や働けなくなった高齢者、身寄りのない孤児などは家庭や地域から切り離され、人里離れた福祉施設や病院に隔離・収容されました。これは世界的な社会福祉の歴史とも言えます。

 

1834年、イギリスで「新救貧法」制定がされました。上記のような援助を必要とする人は、「一般の人より劣った人」として扱われ、低いレベルの生活を送らなければならないという「劣等処遇の法則」が発令されました。この法則は資本主義発展中の世界に広まり、各国の福祉施策に取り入れられました。その後、治療法や生活指導の方法が少しずつ確立され、一般の人から隔離された大規模施設での生活を送ることが当たり前となりました。

 

このような時代、デンマークの知的障害者収容施設でも多くの人権侵害が行われていた事に対し、行政官ニルス・エルク・バンクミケルセンが同国にて「1959年法」と呼ばれる知的障害者法の中にノーマライゼーションの理念を盛り込みました。これがきっかけとなってノーマライゼーションの理念が欧米諸国に広まっていきました。

 

 

 

◆ニルス・エルク・バンクミケルセンがノーマライゼーションの理念に至ったわけ

 

彼はデンマークの知的障害者施策の行政官でしたが、若い頃にナチスの強制収容所に収監された経験がありました。

 

知的障害者たちが、まるでナチスの収容所のような大規模施設で生涯を送り、また本人や家族の了承なしに優生(断種)手術が行われていたことに疑問を感じ続けていました。

 

バンクミケルセンは知的障害者の親の会とともに、「隔離・収容・断種」という非人道的な処遇を改めるよう政府に要請するなかで、「ノーマライゼーション」の原理を生み出しました。

 

ノーマライゼーションは、知的障害者をノーマル(ここでは障害のない一般の人間とされる)にするのではなく、彼等を障害と共に受容し、彼等に普通の生活条件を提供するという画期的な考え方でした。例え重度の障害を持っていたとしても、他の人と同様の権利を持つ一人の平等な存在なのだと説き、以後、バンクミケルセンはノーマライゼーションの父と呼ばれるようになりました。 

 

 

 

◆ベングト・ニリエによるノーマライゼーションの体系化

 

デンマークのノーマライゼーションの取り組みは、ニリエを介してスウェーデンへと伝わります。ニリエは「すべての知的障害者の日常生活様式や条件を、社会の普通の環境や生活方法に可能な限り近づけることを意味する」と定義しました。その後は、西欧諸国、北米、日本にも波及し、世界中の障害者施策に影響を与えました。これによりニリエはノーマライゼーションの育ての父と呼ばれています。

 

 

 

◆国際連合におけるノーマライゼーションの影響

 

(1948年 世界人権宣言)・・・但し障害者の差別禁止事由が盛り込まれていない

 

(1966年 世界人権規約)・・・但し障害者の差別禁止事由が盛り込まれていない

 

1971年 知的障害者の権利条約・・但し知的障害者が平等な権利を持つことに対して「最大可能な限り」という制約があった。

 

1975年 障害者の権利宣言・・・・「最大可能な限り」という文言が削除

 

1979年 国際障害者年行動計画

 

1981年 国際障害者年の開催

 

1982年 障害者に関する世界行動計画

 

1993年 障害者の機会均等に関する標準規則

 

1993年〜2002年 アジア太平洋障害者の10年

 

2001年 ICIDH:国際障害分類

 

2006年 障害者権利条約(2008年5月発効)

 

※日本が障害者権利条約を批准したのは2014年であり、世界で140番目。

 

 

 

◆日本における障害者福祉の歴史

 

弱者を社会的に保護する仕組みが福祉ですが、障害者に対する施策というものは、まず「施設ありき」で始まることが多く、障害者(児)にとって、それが必ずしも当事者の要求に応えられていない、もしくは人権が保たれていない状況が多々ありました。

 

日本では、高度成長期時代をピークに障害者コロニーが数多く建設され、福祉を大義名分とした対象者の隔離が往々にして起こりました。また、当時の福祉施策は行政措置によって行われていたため、本人の意志が尊重されることは稀でした。

 

このような状況に対し、世界的に波及し始めていたノーマライゼーションが日本の福祉施策の舵取りを少しずつ変化させ始めました。障害者の自己選択・自己決定を前提としたノーマライゼーションの実現を目指すために2003年に支援費制度が施行され、2006年に障害者自立支援法、2013年に障害者総合支援法へと障害者に関する法律が変化してきました。しかし、これらの法律はまだまだノーマライゼーションの理念が実現できたとは言えず、数々の問題を孕んでいます。

 

 

 

◆日本型ノーマライゼーションについて

 

日本型ノーマライゼーションの発祥は、近江学園(1946年)を創設した糸賀一雄氏による「この子らを世の光に」という言葉がその始まりだと言われています。以下、糸賀氏の言葉です。

 

「この子らはどんなに重い障害を持っていても、だれととりかえることもできない個性的な自己実現をしているものなのである。人間と生まれて、その人なりの人間となっていくのである。その自己実現こそが創造であり、生産である。私たちのねがいは、重症の障害を持った子供達も立派な生産者であるということを、認めあえる社会をつくろうということである。『この子らに世の光を』あててやろうというあわれみの政策を求めているのではなく、この子ら自らが輝く存在そのものであるから、いよいよみがきをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である。」

 

日本型ノーマライゼーションと西欧型ノーマライゼーション(ここでは日本型に対し西欧型という言い方で表現)の根底にあるものは同一だと考えられます。しかし、気をつけなければならないのは西欧型ノーマライゼーションをただ訳して上辺だけを分かったような気になってはならないという点です。あくまで国柄に沿った(ここでは日本という文化や価値観などを含めた)ノーマライゼーションを考えていく必要があるのです。分かりやすく言えば、もてなしの心や思いやり、辛抱強さ、家族・地域とのつながりなど、日本人にとって分かりやすい日本的なノーマライゼーションの構築が重要だということです。糸賀氏による日本型の理念は、そういう意味において大変分かりやすく、日本人の心に響くと言えます。

 

 

 

◆ノーマライゼーションの本来の意味

 

障害者(児)のありのままの姿を受け容れ、その人々が障害を持たない人々と同じ条件で生活できるように、「周りが変わる」ことこそノーマライゼーションの理念なのです。

 

決して障害者(児)をノーマル(normal)にしようとするという意味ではないのです。障害を持つ人々の「周りの生活環境」を改善することによって、障害を持ったままでも障害を持たない人と同じ生活ができるようになることを指すのです。現在では、前者を「医学モデル」、後者を「社会モデル」とも呼び、更にこの「社会モデル」は「人権モデル」とも言い換えられるほどになっています。

 

 

 

◆人はみな障害と関わりながら生きていく

 

世の中には先天的な障害を持っている方、生後に交通事故、病気、加齢等によって障害を持つ方がいます。人は誰しも障害と関わらずに生きていくことなどできないのです。

 

全ての障害者(児)が「普通」に暮らすためには、何が大切なのかを考えたとき、それは障害者(児)もひとりの人間であるという視点のもと、障害者(児)が住みにくさを感じるのであればその障壁を取り除き、いつでもどこでも「普通」に生きられる社会の構築をしていくことに他なりません。障害者(児)ひとりひとりのニーズに沿った社会基盤の構築こそが大切なのです。ノーマライゼーションとは障害を持った方々が、障害を持たない人と同じように生きていける社会を目指して提唱された理念なのですから。

 

 

 

 

(引用及び参考元)
大熊由紀子「寝たきり老人のいる国いない国」、NEバンクミケルセン「精神遅滞者のための居住施設サービスの形態の変化」、花村春樹「ノーマライゼーションの父」、「ノーマライゼーションwiki」、「松下政経塾HP」、「ノーマライゼーションへの誤解とその定義」、「できるかな?介護の勉強HP」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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